カノパン

とある男子高校生のブログです。天体写真撮影、書評、人生考察をメインに月に一、二回投稿します。記録を付けるために書いています。

旅の効用

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 旅の効用はスウェーデンの人気旅行雑誌の創業者ペールアンディションが執筆した第二作だ。彼自身一人の旅人で、世界各地で放浪を重ねながら旅の意味について考える。金を使わないほど、時間をかけるほど貴重な体験ができると信じて、時にはヒッチハイクをし、進んでユースホステルや民宿に泊まり、そこに住む人々や文化を理解しようとしている。この本は題名から分かる通り、旅行記というよりも考察など説明的な文章が多い。その多くは読んだり、聞いた他人の旅から、教訓になる考えを汲み取るものだ。鮮明な風景描写や奇妙で個性豊かな人々はそれほど描かれていない。しかし、名言や考えさせるような文が多く読みごたえがある。

「旅は、私たちがホモサピエンスであることと関連がある。好奇心だ。『無用な』知識を求めて努力し、知恵を拡大し、視野を広げ、世界像を拡大し、混沌を整理し、秩序を確保しようとする意志である。」

「私たちは体験でできているのだ。体験の結実なのだ。体験する印象が増えれば増えるほど、私たちは人間として成長する。」

 

 この本を読んだことは、私にとって非常に大きな意味を持っている。読み終えた今、そのことをひしひしと感じている。彼の考え方は私の考えと共通する部分が多いためか受け入れやすく、積み重ねられた経験や人付き合いから来る洗練された考えはとても興味深かった。これからの人生を考える今の時期にうってつけだったのだろう。筆者や文中に登場する人の人生をなぞり、仮想体験する。これは本でしかできない体験だと考えている。ただ他人の人生にコミットする必要があるので、自分と考え方が近しい人や読みやすい文体でないと難しい。

 本書によく出てくるバックパッカーとは、どんな人なのだろうかと思ったので、ネットでブログを検索してみた。するとほとんどお金を使わずに4年間世界各地を旅している方がいた。文化交流や小時間労働をする代わり、寝る場所や食事を提供してもらっているそうだ。イスラエルキブツに近いものらしい。もちろん移動はすべてヒッチハイクだ。まったくお金をかけず(航空運賃以外)に海外旅行ができるとは考えもしていなかった。日本国内ではヒッチハイクやホームステイの文化があまりないからだろう。ブログを読んでいるときは、なにか新鮮な心持ちだった。ただ、自分がそういった旅をすると想像すると、旅の間、金銭面の不安がずっと拭えない気がする。仕事がなくなったら、親切にしてくれる家が見つからなかったら。心配に思うのは当然だと思う。しかし本当に困ったときでも、案外何とかなるものだと筆者は自分の経験をもとに話している。以前読んだ村上春樹旅行記にも、同じような記述が確かあった。旅人に楽観的なイメージがあるのは、彼らがこのことを知っているからだ。列車は前に進むのだ。

 放浪旅は不安の連続であるとともに、一つの大きな壁でもあるようだ。金をかけずに長期間旅を続けると、地元民との関わりが生まれるが基本的には一人だ。強い孤独を感じる。信じられるのは自分だけ。これは自分で選んだ孤独に耐える試練なのだ。

例えば一年間アジア放浪の旅をしたとしよう。私は良好な人間関係が築けるようになり、視野が広がり、細かいことに気づけるようになるだろう。けれども、これだけ利点があると理解して、信じていても、旅に出ることを体が拒んでいる気がしてならない。安定を求め、保守的になるのは人の性質なのだろう。未知への不安はおそらく誰しもが抱いている感情だ。だが私は、大学を出たら一年間放浪の旅をしようと心に決めた。この壁を超えることでしか、世界は広くならない。私は今、来年度に使う配られたばかりの教科書を繰っているかののような気持ちだ。当面の目標が決まり、新たな道が目の前に開けたからである。血液が濁流のように胸の中を渦巻いている。

 「探すのをやめないこと。旅をやめないこと。なぜなら広い世界が待っているからだ。世界が小さくなることはない。」

 

 

 追記 私はどうも書評を書くことよりも、感想を書くことの方が向いているらしい。初めから書くべきことが決まっていて、私はそれをつないで、まとめているだけだ。肉付けや間を入れるスペースがない。初めての書評はそんな印象だった。説明文を意識するあまり、自分なりの文体を抑えすぎたのだ。次回は書評に再チャレンジするかもしれないし、感想だけかもしれない。自由気ままに、ノープランで書いていく。